January 27, 2009
グアンタナモ
レッスン会場に張り出された
スケジュール表。月曜日には
キューバンカッシーノと
ルエダのクラスがあった。
スウィング、ミロンガ、タンゴ、バチャータ、社交ダンスにリンディー
ホップ。もちろん場所を変えればヒップホップもハウスもなんでも。
ニューヨークはないもののない街だった。それぞれが趣味はもちろん
いつかブロードウェイはじめ大舞台に通じる可能性を秘めている。
生徒の母集団は多いといえどもインストラクターには一瞬の気の緩みも
許されない。といっても四人くらいでほんわかやってるクラスもあった
けどね。
そんな中、パフォーマンスチームを持たないインストラクター・
ゲイブことガブリエル・ペレスの存在感は忘れられない。
ニューヨークでON2を教えているインストラクターはほぼ事実上
「エディ・トーレスの子供たち」である。だからベースの部分は
皆同じ。しかしその中で頭一つ抜きん出る人間はやはりうーんと
うならせる武器を持っている。
ゲイブの場合、なんといってもそのすごさは「歩き方」にあった。
獲物をつける黒豹のようなのだ。足の裏全体に神経が行き渡って
いて物音一つさせずにフロアを自在に滑るのだけど、そこに
ラテンダンサーならではのどっしりした重みがある。
彼は不必要に生徒に媚を売らない。レッスン中はほとんど笑顔も
見せない。だからといって冷たいというのとも違う。
必要なところですっと出てきて必要なアドバイスを与える。
動物と人間のいいとこどりをしたようなヤツなのだった。
彼の男性の間での人気は絶大で、常時20名くらいの働き盛りの
男たちがつめかけていた。
日本と同じく、パフォーマンスには興味はないけど趣味として、
ストレス解消として、順次うまくなりたいという男たちにとって
ゲイブは完璧なアイコンになっていた。
以前紹介したとおり、彼はエディさんとこの生徒時代MR.DETAILS
というあだ名があったときいて私はウケにウケたのだけど、あとに
なって彼は会計士か何かの資格をもっているだか勉強しているだか
という噂をきいた。本人に確かめてはいないけれども、なるほど
「その一歩」にこだわる彼の美学の根底に会計学のような緻密な
勉強があるとすればそれは心から納得できるものだった。
キューバにあるグアンタナモ米軍基地の異常性については、政治に
一粒も興味のなかった私でさえかつてから心を痛めていた。
時を経て、歴史と政治と文化が三位一体であることを知った今と
なっては、人々の幸福のために、また究極的にはダンスの幸福の
ために、どうかキューバの大地はキューバにお返し願いたいと
祈る想いがつのるばかりだ。
テロを防がなければならないアメリカの立場は当然だ。
しかし、あの小さな島の中に地雷に埋め尽くされた収容所がある
などとはどう考えても正常とはいえない。
誰もが幸福を祈っている。しかしその道がどうしてこうも遠く険しい
のだろう。
ダンス教室ではどんなスタイルも仲良く共存しているというのに。