August 10, 2018

Rik Indioの"Te Voy A Enamorar"偏愛につき

サルサにはさまざまなテイストがあって、時代や地域によって単純に同一のカテゴリーにいれてしまっていいのかと迷うほどに幅が広い。そのような中で、よく話題になったのが「サルサロマンティカは是か非か」というテーマだ。ロマンティカはメロディアスでポップな雰囲気を持ったサルサで、セルジオ・ジョージというニューヨークのプロデューサーが手掛けた作品群がその代表とされている。私がサルサにはまった直後あたりにその怒涛の進撃がはじまって、最終的に私は仕事をやめた。こんないい音楽があるのにパソコンに向かってデータを入力しているのは生物として間違っていると思ったからだ。一曲あげるとすれば、インディアのEse Hombreがその犯人だ。



彼女のアルバム"Dicen que soy"はどれもとりこぼしのない名曲ぞろいだったけれど、"Ese Hombre"の「なんてやつだ、私を裏切りやがって・・・!!」という絶望的な演歌っぷりは言語を超えた魂の叫びとしてすさまじいインパクトがあった。

もうひとつ、この曲で私が学んだのは「暗いテーマでも曲調は明るく終える」という一種の美学だ。これはラテン音楽すべてにあてはまるわけではないが、重いテーマ、暗い内容であっても、最後はマイナーコードをメジャーに転換することによって後味を軽くすることがよくある。この映像でいえば3:21がその転換点にあたる。これはブニュエル監督の映画「サルサ!」の肝であった「かなしみは笑いで隠せ」的なセリフに相通じる感性だと思う。

キューバからもものすごいバンドが次々来日するような時期で、むさぼるようにディスクユニオンでサルサの音源を探していた当時に比べれば、現在は曲探しは格段に楽になった。そのぶん名曲にであったときの感動はよくも悪くもうすれている。苦労しないで手に入ったものは味がうすい。そして、あのころ衝撃をうけたような曲にはもう出会えないのだろうかという気持ちになっていたことも否めない。

ところがそういう私のさめた気持ちに喝をいれたものすごい曲が2015年になってとうとうあらわれた。上記インディアの曲に匹敵するインパクトをうけたのは、あれ以来はじめてかもしれない。それがRik Indioの"Te Voy A Enamorar"だ。



これをきいたときは、セルジオ・ジョージが復活したのかと本気で思ったよ。なぜならピアノのたたき方、コードの展開があまりにもそっくりだったからだ。

この映像の解説に"salsa super romantica"とかいてあるのはまさにそのとおり。ロマンティカのなかでもことさらロマンティカなのだ。プロデューサーはEfrain Davila。曲の作り方をみればセルジオ・ジョージの跡継ぎといっても過言ではないだろうと思う。彼はミュージシャンとしては二世で、そのフェイスブックにはラテン界における立派すぎる人脈がみてとれる。Rik Indioに関しては「私の才能あふれるbrother」と書いてあって、このブラザーが血のつながりがあるということなのか、それとも親友という意味なのかはいまのところわからない。彼が演奏してるシーンがところどころ投稿されているけど、めちゃめちゃやっぱいいですよ。興味のある人はフェイスブックつないどきます。

コメントにはこの曲のことを"enough to satisfy the hungriest salsa lover"と述べているものがあるが、まさにいいえて妙。サルサの好きな人間はいつも名曲に飢えている。それは曲としてきいて美しく、踊って陶酔できるという両方を兼ね備えたものがそうそうないからであって、"Te Voy A Enamorar"は双方を完璧に満たした稀有な完成度を誇っていると私も思う。

このような曲を前にして「ロマンティカは甘すぎてちょっとね」と顔をしかめる人間のことを私は信用しない。この曲をばかにする人間は、はっきりいえば恋をしたことがないのだろう。恋をすれば誰でもばかでおろかでかっこ悪くなる。ロマンティカのもつ軽々しさ、あまったるさは、恋をしたとき特有の人間の情けなさを表しているとしか私には考えられない。

名曲が名曲である理由はあげたらきりがないけれど、この曲はまず歌いだしがいい。クリアで切なく、これまでやっていた作業の手をついとめてしまうような「お酒はぬるめの燗がいい」スタートなのだ。

次が1:00からのサビの華やかさだ。これがRikの声質に抜群にあっている。これにリズムをメロディーをかねるピアノが加わってなおのこと胸がしめつけられる。

そしてほら、あるよやっぱりマイナーからメジャーへの転調が2:37に。そっくりでしょう、インディアの曲と。

とどめが2:45からのコーラスの導入だ。サルサは後半に必ずこのコール&レスポンスが入る。アフリカ音楽の名残である。この曲はそのコーラスのハモり方が半端なく美しい。天上から大天使の一団が舞い降りたような重厚さ、品格がある。もちろんメロディーも文句なし。これは本当に、名曲中の名曲というしかない。

それなのに、3:30からまた新しい展開を付け加えてくれるのだ。もういいのに、十分なのに、また装飾を加える。そしてそれが全然余計じゃない。期待していなかったデザートがもう一品シェフのはからいでついたようなものだ。コンサートでこれをきいたらついに失神するのではないか。

以上、Rik Indioの"Te Voy A Enamorar"偏愛につき述べてまいりました。まだしばらく私はこの曲だけでいいです。え、この曲はオン1向けかオン2向けか、だって?


うるせいっ!!!!



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