November 16, 2012

草食系ヒーロー

ギャレス・マローンという人をご存知でしょうか。はじめて聞いた方はちょっとこちらをご覧ください。

イギリスの合唱団指揮者。若くて有能、行動の人です。少々不眠の気のあるワタシはとある夜中に偶然この人のドキュメンタリーを見て以来、何か「ファンになった」という言葉では言い尽くせないような、うーん・・・共感とも驚愕ともつかない感情にとらわれています。

ギャレスさんは「コミュニティ合唱団」という、ある特定の地域・あるいは何かの背景を共有している人々を対象にゼロから合唱団を立ち上げ、これまで全く歌った経験のない人々をステージにあげる活動をしています。 殺伐としたもの寂しげな街を駆け回ってメンバーを募るところからストーリーは始まります。サウス・オキシーは周辺の住民から「貧しいところ・怖いところ」というレッテルを貼られている場所ですが、彼はそれをものともせず通りすがりの人々に声をかけ、警察や小学校に出かけていってメンバーを募ります。若い男性を集めるためにボクシングジムのリーダーに協力を求め彼らを週末のパブで歌わせてしまいます。歌なんか歌えそうもない環境で歌になんて興味がなかった連中に歌わせてしまう。そしてかれらがそれを喜んでいるのです。

彼は障害のある子供のところにも乗り込んでいきます。老人達のコミュニティにも入っていきます。イレズミの入ったギャルも鼻ピアスのにいちゃんも参加します。彼らがいっしょくたになって大聖堂で難曲を歌い上げるわけです。「これが人生最後の歌になっても悔いはない」と老人がいいます。人々の顔が自信と誇りでみるみる輝いていく様子がはっきりと映し出されています。

ここで我々が考えなくてはいけないのは彼らの背景です。明日が今日よりもよい日になると思える人間は幸せですが、彼らはそうではなかった。しかし合唱のおかげで彼らは今晩の練習が楽しみになり明日が楽しみになり発表が楽しみになりこの街が好きになる。ギャレス・マローンという突出した才能がそれを可能にしているという圧倒的な現実があります。

なぜ彼にはそれができるのかというと、まず音楽に対する深い理解というベースが絶対に欠かせないわけですが、それに加えて不可欠な才能が「分け隔てのなさ」です。彼は相手がどんな年齢であっても職業であっても外見であってもなんであってもどんな人でも、まったく自分というものを飾ったり守ったりすることなくその懐に入っていけるものすごい才能を持っているようなのです。

彼自身はひょろひょろの典型的草食男子ですが、合唱のためならボクサーとも対等に渡り合います。「お人柄」のレベルではありません。一見自分と正反対の価値観を持ったコミュ二ティに協力を求めに飛び込んでいく。彼は紛れもなく現代の新しいヒーロー像を体現した人です。

彼を知ってから「殻を壊す」という言葉の意味を改めて考えるようになりました。松田優作は演技の壁を越えられない後輩を前触れなしに殴りつけ、驚愕した相手に「その顔だよ、その顔を覚えておけよ」と言ったそうです。ワタシは今、ちょうどそんな状態でいるところです。今晩は驚愕の顔で中央線に乗ることになりそうです。


salsaconsul at 11:29│TrackBack(0)■SALSA FRESCA泣き笑い 

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