September 04, 2010

駅へ向かう:その1

さて、ノースカロライナはローリーのホテルからアムトラックの駅
にむかうタウシーでまたひと悶着あった。みなさんをまた喜ばせ
ることができるのは自分の限りない喜びである。
そのタクシーというのは前日フロントに頼んでよんでおいてもらっ
た。ノースカロライナの運転手はほぼ全員アフリカ系であった。
アムトラックの駅まで、と確認するとうむ、とうなずく。不機嫌であ
る。これは田舎のほんとによくないところなのだが、タクシーメー
ターを使わない。ホテルでは35ドルといわれていたがどうも
ふっかけられそうなので料金を確認したらフロントガラスをみろと
いう。みたって何も書いちゃいないのである。なんとなくばかばか
しくなった。というか、なんとなくばかばかしい感じがいやなら
タクシーなんか使えないというのがほんと、実感である。レンタ
カーすれば事故るしタクシーにのればぼられる。
うちにいろということか。

さて、そうはいってもできるだけよい気分で旅を続けたい。みれば
運転手は実にいいシャツをきているのだ。ちょっとない色合いで
ある。それで私はほめてみた。するといきなり顔が変わったものだ。
人間ほめられていやな気はしないのは世界共通である。きいて
なるほど、そのシャツはイギリスで買ったものだそうだ。ズボンも
あきらかに仕立てが違う。やはりイギリスは紳士服の国である。

彼はイギリスからノースカロライナに移住した。おそらく仕事が
なかったのである。それで双方ここで何をしているのかという話に
なったわけなのだが、ナイジェリア出身の彼は私の年齢と現状を
知るにつれていらいらしてきたらしい。

ここから先は読者の皆さんをいったん少々不愉快にさせるかも
しれないことをお許しください。ありのままいきます。

「ダンスができない男と結婚してやっていけるのか」と彼はきいた
のである。これはサルサファンであれば誰でも一度は遭遇する
問題であろう。私はうーんと考えて、「共通の夢があれば・・・たと
えば何かの仕事を成功させたいとか、あたたかい家庭を築きたい
とか、家を買いたいとか、そういう夢を共有していれば大丈夫では
なかろうか」といった。彼はそれにはなるほどという顔をしたものの、
童顔のわりに年齢のいった、かつ一人でノースカロライナまで
「ダンスなどのために」ふらふらやってきている私に説教をしたく
なったのだ。

「子供を作りたくない、という人間がいるがオレはあれは絶対に
許すことができない」

彼は自分で自分の話にたきつけられてヒートアップしていった。

「子供がいなければ自分が生きた証はこの世から消えてしまう
のだ。それでは母親はなんのために産んでくれたのだ。」

私は子供を作りたくないなどとひとこともいっていないのに、彼は
私を「世界未婚主義代表」とみなして糾弾をはじめた。

「それほど勝手なことはない」と彼がいったところでついに私は
キレた。


If you say I'm selfish, there's a reason to be selfish!!



何か思う前にもう口をついて出ていたのだった。
他人だからといってだまって聞き流すことのできることとできない
ことがある。彼はさすがにだまった。



そうこうするうちに白い駅舎がみえてきた。いかにも南部の趣で
ある。私はさっきの言葉に


For now.



と付け加えて仲直りした。支払いもともかく、後味の悪い気持ちで
別れるのはいやだったのだ。そしてナイジェリアにこの車を送る
ために毎日働いている、という彼の夢がかなうよう祈った。

37ドルという彼の期待どおり40ドル払って降りた。
タクシーはUターンして去った。

私は記念に駅の外観を写真に撮ってから舎内に足をふみいれた。

バーコードでチケットを発行するための機械がどこにもない。
それどころか駅員が一人もいないではないか。

そこは私の予約した駅ではなく、隣の駅だった。


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