August 31, 2010

長い夜

思い出すのがきつくてなかなか筆がすすまない。
その瞬間は何がおこったのかまったくわからなかった。

左車線に入ろうとした瞬間、どん、という衝撃が体に走った。
痛みはなかった。見たのに、見てから入ったのに、なんで?!
パニックで直後のことは覚えていない。
後続車に追突されなかったのは不幸中の幸いであった。

二台の車はゆっくりと一番右の車線に寄せた。

ハザードランプのスイッチをいれた。
それだけでもう力尽きて何もできなくなってしまった。

こういうとき、一人で何ができるのだろう。

でていくべきなのだろうか。でていかなくてはならないのだろうか。

実際は「でていけなくて」正しかったのだ。
夜のハイウェイで朦朧とした人間が車から出たらどういうことに
なるか。

前にとまった車からでてきたのはおそらく30代とみえる男性だった。
ここは危険だからとにかくいったん一般道にでるからついてきて
ほしい、とのことだった。

こうして私は冷静な人の乗った車と幸運にもクラッシュしたのだった。



彼は土地勘のある人で、近くのレストランの駐車場にはいった。

そこで双方の車の状態を確認した。私のほうはドアがへこんで
開かなくなってしまった。彼のほうはドアとミラーを少しかすった
だけで、車を洗うくらいでほとんど大丈夫だろうということだった。

彼は示談を希望した。このようなかすり傷の場合、保険屋にもっ
ていっても結局君が高いお金を払わされるだけだからかえって
損するよ、ということを何度も解いた。つまり、保険会社側の免責
に該当する可能性が高いということを言いたいのだ。

そして、「正直にいうと保険会社とのやりとりが始まると実際の
支払いまでに面倒なやりとりが続く、しかも次の契約のときに
保険金があがってしまう。あなたが非を認めてこれから自分の
知っている修理会社に頼んでその費用をせいぜい250ドルなり
支払ってくれれば、ここで夕飯を食べている間に修理はすんで
しまうだろう。それにくらべて事故の報告をすれば、あなたは
多分1000ドルくらい払うことになってしまうよ。比較して、どっち
がいいかよく考えてほしい。そのうえであなたの意見は尊重する
から」と言った。

この内容がいいか悪いかは私の判断することではない。

彼は以前日本で事故をおこしたことがあり、そのときに相手方の
日本人が大変よい人であったと言った。

私はどういうわけか今回、保険についてはかなり勉強していった。

それなのに、よりによってこの晩にかぎって保険の内容と緊急電
話番号をかいた契約書をホテルの部屋においてきてしまった。

あってはならないことである。私は事故そのものよりも、この点で
自分を許すことができなかった。このとき以外は必要な書類は
すべて持ち歩いていたのにも関わらず、だ。

安全運転以外絶対にしないしできるはずもないという気持ちこそ
逆に奢りにつながる。

緊急の電話番号はネットでも検索することができず、その場で
保険の内容を確認することは不可能になった。

相手も疲れていた。彼は私のホテルに電話をいれ、部屋にはいっ
て契約書の内容をみてもらおうとしたが、電話口の担当者に断られ
電話をきると「タクシーで見に来いだってさ。」とためいきをつくと

「ウェルカム・トウ・アメーリカ!」と肩をすくめた。

そのときの電話口の担当者の名前には聞き覚えがあった。
ネット上で、ホテルの名番頭とたたえられていたからである。
彼はいかなるときも宿泊者の部屋に入ったり、まして書類を見たり
しては後にトラブルになる可能性が高いことを知っているのだろう。
断ったのは当然のことである。

でもネット上の評価を知らなければ私も「これは緊急事態なのに」
と激昂したかもしれない。

窮地にあたって、できることをしている二人の人間の前で自分だけ
がこれ以上バカの上塗りをしたくなかった。

私はようやくの思いで、申し訳ないがレンタカー会社との約束に
より警察に連絡をすることは義務付けられている、軽い事故の場合
はカリフォルニアでは警察はこないとはいっても、義務を果たさない
わけにはいかないのだということ、ホテルにかえって書類を確認
するまえに示談に応じることはできないこと、今の段階で頭痛と肩の
痛みがあらわれており、報告をせずに示談をうければ医療費を申請
できなくなってしまう、以上の事情によって貴殿に時間をかけてしまう
ことは大変に申し訳ないと思っている、と伝えた。

将来の自分のために保険がおりる態勢にもちこまなくてはいけない
ということが一点。

自分のかけた保険に軽症の事故の場合の免責があるかどうかが
もう一点。

その確認のために私はどうしても帰らなくてはいけない。

彼は緊急ではない番号で警察に連絡をしてくれた。そして日本語
のできる人を電話口にだしてくれ、といって、この事故の場合警察
はこないことを私に納得させた。

事故の報告に絶対に警察証明が必要な日本人にとっては、これは
どうにも信じがたい。話にはきいてはいたが、実際にそういう場に
あたってみないと信じられないことだった。しかし本当にそうなのだ。

ではどうして「事故にあったら絶対に警察に連絡してください」と契
約のときにいわれるのだろう?保険の申請に警察証明が必ずしも
必要とは限らないということを知っているかいないかは、運転者に
とってはとても大切な情報だと思うのだけれども。

それも自分で調べるべきだということであろう。

レストランのウェイターは注文をしない私たちを尊重してくれた。
事故にあたってその後少なからずの人からうけた同情は、ロスの
人は冷たい、という先入観が強かった自分にとって大きな救いで
あった。


助手席側から乗車してホテルまで一般道でもどった。

引き出しからファイルをとりだし、契約書を確認した。


車両の補償条項に「免責はありません」とあった。

どんなに軽症の事故であっても保険はおりるということである。


私は緊急電話番号に事故の報告をし、事故の相手と私をクラブに
案内しようとしてくれた人の二人にメールをだした。



ブログという仕事がなければこの日のことを思い出すことはできれ
ばしたくなかったのだけれども、これからの自分のため、に書いて
よかったです。




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この記事へのコメント

2. Posted by RIO   September 02, 2010 04:51
おかげさまで無事です!今は肩凝りが毎日かわりばんこに現れて閉口しているくらいです。ご心配ありがとうございます。これからもどうぞご愛読を
1. Posted by おにぎり姫    August 31, 2010 16:28
その後お体の具合はいかがですか?
大きな事故ではなくて、本当に良かったです。

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