June 10, 2007

"You look like a little girl."

トヨタ
今回の旅行中

運命をともにした

トヨタ。

幸い私もヤツも

まだ生きている。

 

 

安い服があると教えられて訪ねたこのあたりは、主に黒人たちの

居住地域だった。LAの中にはブロックごとのすみわけがあるようだ。

 

LAスタイルの正体がいかなるものか。

これは今回の旅の最大のテーマだ。

LAスタイルはキューバン、ニューヨークと並んで

「THE」という冠詞を伴うにふさわしい存在感を発揮

している。

なぜ、どうして、この三つなのか。

アメリカは広い。

ラテンアメリカも含めたら絶句するほど広い。

その中で、なぜ、どうして、何をもってこの三つなのか。


スティーブンズ・ステーキハウスはLAスタイルの

ダンサーにとって欠かせないクラブ、と日本で聞いていた。

LAで最高のダンサーが集まるクラブの一つだということと、

日曜日に激安で食べ放題をやってくれるという二点において。

今回私は日曜にLAに滞在することができなかったけれど、

火曜のスティーブンズがいい、ということで行ってみることに

した。


スティーブンズ・ステーキハウスはその名の通り、れっきと

したレストランである。

真っ白のテーブルクロスがかけてあるところから、かなりの

高級レストランであることがわかるけれども、食事が目的の

人はほとんどいなくてみんなダンスに来ている。

前にバンド用のステージがあって、その前の空間がダンスの

ために解放されている。火曜はバンドはなしで、DJがプレイ

していた。


アメリカのクラブでダンサーに好まれる曲は日本とは違うよ、

とも聞いていた。

自由にダンスが構築できる曲がいいみたいだね、というふうに。

私が思うに、日本との最大の違いはチャチャチャが非常によく

かかるということ。5,6曲に一曲くらいの割合でかかる。

メレンゲ・バチャータはチャチャチャと同じかそれ以下しか

かからず、レゲトンはいっさいなし。

また、曲は全体的に渋好みで、サルサ・ロマンティカ系の

甘いのは全くかからない。ごん太系、とでも言おうか。

日本では大人気のマーク・アンソニーはアメリカ滞在中

一回しか聞かなかった。


LAスタイルについてはっきりした印象が見えてきたのは

実は後にロサンゼルスを離れてからのことだった。

比較の対象がないと、物事の意味はわからない。

ここに書くストーリーは私がまだLAの人々のサルサしか

見ていないときのこと。

 

私ははじめての本場のサルサをキューバで見た。

キューバ人のダンスはベースにソンとルンバを色濃く残して

いる。この二つのステップの上に、男性が女性を複雑怪奇に

まわしていく踊り方がのっかっているような感じだ。

ルンバは男性と女性が距離をおいて、ひとつのストーリーを

語るような形で踊っていくので、キューバ人も男女が離れて

踊ることに対して慣れている。それぞれが独立してうまい。

組んでもうまい。子供も老人もそれぞれにうまい。味がある。

というわけで、私にとって男女が別々に踊ることはごく

あたりまえの光景だった。


スティーブンス・ステーキハウスで「事件」がおこったのは

到着してシューズをはきかえてすぐのことだった。

一人の老人が近づいてきて私を誘った。

非常にうまい。いわゆる「サボール」のある人である。

いっさい組まないけれど、私はこの人のダンスはとてもいいと

思った。踊りながらさまざまな技、というか音のとり方を

盗ませてもらった。日本の老人にもごくまれにこういう感覚の

持ち主がいる、というような踊り方である。

3曲続けて踊ったところで私のステイ先のケイコさんがすっと

寄ってきて、「私の友達を紹介するから」とまだまだ踊りた

そうな老人から私を引き離した。

「あの人、みんなから嫌われてるんだよ。

リードしないんだったら誘わなきゃいいのにね」


クラブで同じパートナーを何曲も誘い続けるのはルール違反。

これはいちおう常識の範囲内である。

しかし、彼のようなダンスを踊る人がLAで嫌われている、独立

して踊る人が認められない、という事実はほとんど衝撃だった。

私はそのあと紹介してもらったケイコさんの友人たちと踊る

どころではなかった。呆然自失。

うまい人が認められないのか、ここは・・・。

LAほどの目の肥えた人々の集まる大都会で、多様性が認められ

ないとしたら・・・あのようなサボールの持ち主はどこへ

行けばいいのだろう?

本来なら拍手喝采を受けてもいいような技量の持ち主なので

ある。ある意味ここの読者がもっとも望んでいるものを持って

いる老人だったといってもいい。それが、リードしないからと

一蹴されてしまうLA。これは現実なのか。

何かの間違いじゃないのか。

 

私は動揺して、そのあと踊るどの人とも楽しめなくなった。

数人踊ってまったく手ごたえのない状態で、追い討ちをかける

ように私を悲しませる出来事がおこった。

私を誘った非常に紳士的に見えた黒人の長身の男性が、

踊りながら周囲に目配せをするという最悪のルール違反を

はじめたのだ。

クラブの常連としてもっともやってはいけない行為である。

一曲が永遠に感じられた。

早くここから逃げ出したい。

そのとき感じたのはそれだけだった。


フロアを抜け出し、周囲を取り囲むようにしつらえてある

バーカウンターの後ろで人々でいっぱいのフロアを見ていた。

見ているような振りをしていた。

こんな思いをするために私はこんなに遠くまで来たのだろうか。


「今夜オレとすごさないか」

からみつくようなスペイン語とともに抱きすくめられたのは

その直後。

一瞬体が凍る。

思い切りふりほどいて後ろを振り返った。

「カルロス?!」

ケイコさんの友人で、昨晩紹介されたばかりのカルロスが

大笑いしている。

それに続いたのが今日のタイトル。

「ひどいなあ・・・!!」とあきれて見せてから

「うん、そう。まさにそういう気分だった。踊って?」

もう一曲の半ばを過ぎていたサルサで踊った。

昨晩はまったくあわなかったカルロスだが、今日は少しましに

なったかなという感じ。

 


さっきの無礼千万の黒人の男が近づいてきたのはその直後

だった。「もう一曲踊りますか?」と言う。

なんだか誰も信じられなくなっていた。

どうでもいい気分で応じる。

ところが彼の態度がさっきと少し違うのだ。

気をつかってリードしてくれるのがわかる。

・・・わけがわからない。


二曲踊ってドリンクを注文するカウンターに誘われた。

皆車で来ているのでアルコールをオーダーする人はほとんど

いない。

彼もミネラルウォーターを二本頼んで、私に向き直った。

まず自己紹介をしてくる。私も名前くらいは言う。

「今度日本に行くんだけれども、連絡先を教えてもらえますか」


今晩はどうかしている。

全体がちぐはぐなのだ。

いわゆるナンパというのとも感じが違う。

彼は立ち振る舞いや話し方、物腰全体に知性がある。

そういう雰囲気は、どうしたってつくろったりごまかしたり

できないものだ。

ビジネスで日本に行く、という言葉につくりはまったく

感じられなかった。

どうしてそんなこと言うんですか?という顔、以外に

できることがない。

社交辞令を続けてその場をしのぐ。

とにかく本意がわかるまでは油断はできない。

さっきあれほどいやな思いをさせた張本人なのだ。

LAのサルサについて話を持っていき、ここの人たちの踊り方は

とても難しく感じられるのだけど、と言ってみた。

ここにいかにも来慣れている感じの彼がなんと言うか、この際

だから切りかえしてみよう。

「難しい?どうして?!」

彼はびっくりした顔をした。


"Your dance’s very good."

 

「へ?」


シンプルな言葉が衝撃だった。

さっきまで人をばかにしていたではないか?!

 


" 'cause you feel music like we do!"

 

「は?」


"You have your own style.

My friends thought so too while we're dancing.

You don't have to be showy. Passion."

 

私はホントに子供みたいにわんわん泣き出してしまった。

いるんだ、こんな「サーカス一座」みたいな人たちの中に、

私のやってることわかる人が?!

 


帰り際、ケイコさんに

「○○さんとずっと話してたでしょ。

あの人いいリードするよねえ。何話してたの?」と言われた。

言葉が出てこない。

ただ一人、霧の中に放り出されていた。

ロス二日目の夜のことだった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 




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この記事へのコメント

2. Posted by salsaconsulRIO   June 11, 2007 22:05
わかってくれる人がいなければ書けないのはダンスと同じ。こういう読者がいると知っているからパワーをもらって書き続けられる。いつもありがとう。
1. Posted by HRK   June 11, 2007 16:31
RIOさんの感情の浮き沈みが手に取るように伝わってくるよ。素晴らしい文章構成と、LAでも認められるRIOさんのダンスに脱帽。

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